一般社団法人がん哲学外来

コラム:1人1人の生き方カフェ

文責・北郷秀樹/監修・宮原富士子

vol.6 小さな対話が新たな生き方の扉を開く

前回は、共同意思決定の理解を患者さんだけでなく、医療関係者や一般市民の方に広めていくには、まずは「対話の大切さ」を理解してほしいという思いを綴りました。
今回は、さらに一歩踏み込んで、「患者さんと医療者との対話が治療の選択やこれからの生き方にどれほど深く関わるか」を伝えていきたいと思います。
実際の患者さんの生の声を日本がんサポーティブケア学会の教育講演で発表したアンケート結果を交えながら、「小さな一言がこれからの生き方の大きな一歩につながる」―そんな対話の力を皆さんと一緒に見つめていければ嬉しいです。

対話の意味

まず、「対話」と「会話」の違いについて少し触れたいと思います。「会話」は何気ないやり取りで、時には気軽に、お互いの距離感を縮めることもあれば、時には一方通行に終わってしまうこともあります。
それに対して「対話」は、話すことで相互に深く理解し、尊重し合い、同じ目的に向かって一緒に心を通わせるコミュニケーションなのです。

対話の最も大切な時は

例えば健診で要検査となり、その結果が出るまでの間にも心の葛藤(間違いじゃないか?とかなんで?)があります。でも、対話の重要性の視点からは、検査結果の告知から治療方針の決定までの1週間が、これからの生き方を左右する重要な期間なのです。この期間が長いか短いは患者さんひとりひとりの状況によって異なりますが、十分な対話がなされているかというと十分ではないと多くの患者さんの声があります。
そこで、キャンサーペアレンツの会員の皆さんの協力を得て、「今、現状はどうなっているのだろう」を明らかにして、課題を見出し、皆さんと一緒に小さな一歩を踏み出そうと考えました。

アンケート結果

1)患者の治療への考えや希望についての対話と治療選択
詳細な検査結果をもとに医療者から病名と、エビデンスに基づいた治療法の説明を受けた後で患者さんのニーズを聞かれた際に、患者さんが自身の意見を伝えた割合は64%。医師に任せた患者さんは22%、希望を伝える余裕がなかった患者さんの割合は14%でした。
その時の気持ちを聞いてみると、医師に任せたあるいは余裕がなかった患者さんは、知りたいこともあり、話したいこともあるけど、何か言えないとハードルがありました。それは、次のとおりです。
🌱「医師に任せた」:医師の言うことが一番正しいと思った方もいましたが、医師からの威圧感みたいなものを感じた(治療選択を一緒に考えてくれるのでなく、一方的に選択を迫られた感じ)、あるいは何かわからなかったのでとにかく医師に任せたという気持ち。
しばらく経って思い返すと、本当に任せてよかったのか?と思われた方が多いことがわかりました。
🌱「余裕がなかった」:知りたいことはいっぱいあるが、どう聞けばいいかわからない。医師からは相談窓口等の紹介もなく、話す場所がなく孤立してしまったという回答がありました。
治療に対する要望についての対話の結果として、「対話を通して自身が治療選択に関与できた」と言う割合をみると、対話ができた患者は89%、医師に任せた患者さんは58%、余裕がなかった患者は、わずか32%でした。
人間って混乱している時には決断能力は下がるものです。(決断を迫るのは無理です)。その時に相談する場(他職種の方のサポートが受けれること)を知っていれば、きっと変わっていたと思います。

2)患者の生き方に対する対話と治療選択
治療選択を検討する上で医療者と患者が価値観や生き方について対話することは、患者さんひとりひとりに適切な治療選択を一緒になって決めるとても重要なことなのです。
しかし、この調査の結果では、医師から価値観について尋ねた割合は約2割にとどまりました。
生き方について医療者に伝えたことでは、子育て(子供を不安にさせたくない)や仕事は生きがいなので仕事をしながら治療したい、A Y A世代では入院中にオンラインで授業を受けられるサポートがあって初めて医療者の説明に耳を傾けることができたという声が多かったです。
確かに生き方についての対話できたのは決して多いとは言えません。それでも、医療者と生き方について率直に対話できた患者さんほど治療選択への関与の満足度が高いことが明らかになりました。具体的には、生き方について対話できた患者さんの治療選択関与への満足度は90%、対話ができなかった患者さんは59%にとどまりました。
生き方への十分な対話を通して、医療者は患者の生き方に耳を傾けそれをサポートし、患者はそれに応えることが、患者さん自身の気持ちの負担を軽減して治療に専念できることへつながるのだと思います。

対話が新たな生き方の扉を開く

今回は患者視点での話となりますが、対話が治療選択という大事な決定に大きく影響することが伝わりましたでしょうか。
ここで患者さんに心がけてほしいことを3つお伝えしたいと思います。
I.「わからないことははっきり言おう。わかったつもりにならないこと」
医師に治療選択を任せることがあっても、自身の希望や生き方は声を出して伝えましょう
“生き方の上に治療がある”
II.「医師と患者の間には思い込みの違いがあるます。でも黙っていてはわからないものです。」
医療者と患者さんの思い込みの違いを理解し、対話を通じてそのギャップを埋めることも大切です 。
“治療は修行じゃない” 辛かったら言ってほしい。
III. 「医療者以外に相談できる相手はいます。」
一緒に考え、対話ができるように後押ししてくれる薬剤師、看護師、がん教育や相談に必要なリテラシーを学んだ人達は必ず身近にいます。
“ひとりにならないで”

まとめ

医師と患者さんの対話は、ひとりひとりに適した治療の選択やこれからの生き方に大きな影響を与えることが伝わりましたでしょうか。
患者さんが医療者と一緒になって患者さんのこれからの新たな生き方の扉を開けられるように、患者さんを後押し、より良い共同意思決定の環境を築いていけるよう皆さんの力をお願いいたします。

vol.5 生き方の上に、治療がある時代へ

患者と医療のパートナーシップ、『対話による共同意思決定』

みなさん こんにちは
暑い日が続きます。私事ですが、共同意思決定の支援活動をしつつ、その環境作りのために健康経営エグゼクティブアドバイザーの資格取得への勉強と、心理カウンセラーの勉強をして患者さんの相談にもっと応えられるようになんとか頑張っています。

最近の出来事では、患者さんから相談を受けた後で、患者さんから“またお会いするのを楽しみにしています”と言われ、「やっていて良かったな」と思いました。

それでは本題に。。

最近疾患を問わず、『共同意思決定』(S D M:Shared Decision Making)という言葉を見聞きすることが多いと思いませんか。
患者と医療者が協力して治療方針を決める過程を意味します。言い換えれば、患者さんは自身の治療への考えや価値観(これからの生き方)を医療者と共有し、医療者は専門的な知識と経験をもとに、患者さんの考えや価値を理解し、それを支援することでその患者さんに最適な治療選択を提案するということなのです。
そのためには患者さんと医療者の対話があってはじめて実現するものなのです。
特に癌治療においては、SDMの重要性がますます高まっています。

「共同意思決定が生まれた背景について」

患者さんの知る権利を明文化したIC(インフォームドコンセント)からSDMへ

少し昔に遡りますが、I C(インフォームドコンセント)は1970年代にアメリカで患者の権利章典として生まれました。1970年代の医療の出来事と言えば、高齢者医療費支給制度が創立され、70歳以上は医療費自己負担が無料化(今は2割負担)やアメリカでX線C T装置が開発された年になります。日本ではフォークソング(吉田拓郎、森山良子等々)が流行した年で、私もフォクギターを購入して友人と歌いました🎵。話を戻して、I Cは、患者さんが知りたいと望めば十分な情報を提供し、患者さんがそれを十分理解した上で治療に同意することと定義されています。
しかし、時間制約やがんと言われて混乱している状況で患者さんが知りたいことを十分質問できないまま医療者側からの説明だけで患者さんが同意する一方向性が多かったと言われています。
その中で、I Cを基盤にしたSDMが提唱され、日本でも2000年代から明文化され始めました。

対話を通しての共同意思決定(S D M)の重要性

患者さんが医療者との対話を通して治療に関与できたと実感できることで、治療に専念でき、治療効果が向上する可能性があると言われています。
また、共同意思決定は医療者にとっても重要で、医療者は患者の価値観や希望を理解し、それを支援することで、より適切な治療を提供することができ、患者との信頼関係を築くことで、医療の質が向上することが期待されています。

「現状について」

SDMの現実をより正しく理解するために

S D Mが本格的に普及し始めて25年が経過した現在、患者さんとの会話で、S D Mが十分普及しているとは言えない現状があることを実感しました。様々な疑問が頭の中を駆け巡りました。
患者さんは医療者に治療への希望を話せているのだろうか?
患者さんは自身の生きかたを医療者に話せているのだろうか?
医療者は患者さんの生き方に耳を傾け、それを支援しているのだろうか?
患者には患者さんの考えや思いがあり、医療者には医療者の思いがあり、時に思い違いもあることをお互いに理解しているのだろうか?
患者さんは医療者と対話する前に、自身の考えや生き方、知りたいことを知れる場を必要としているのではないか?
・・・・・
こういった現在のS D Mの現状を分析したデータが必ずしも十分とは言えません。
そこで直近のS D Mの現状と課題を明らかにするため、調査を実施し分析しました。
その内容についてオンラインのライブで解説し、皆さんのご意見を共有したいと思います。

また、コラムに対するご意見もお寄せください。

vol.4 相談しようよ 自分の気持ちを口に出して話してみようよ=相談

🌱相談は「弱さ」ではなくて「強さ」
🌱一歩踏み出すことで、心が楽に
🌱相談することが未来を変えるかも

心の中にある不安や疑問はたくさんあるのに、どう話していいかわからない!
話すことで、「弱いと思われたくない」「相手に迷惑かも…」って思っていませんか?
そんな遠慮はいらないですよ。

どうやって相談(不安や悩み、自分の価値を話してみること)すればいいかのヒントを共有したいと思います。参考にしていただければ幸いです。
みなさんの工夫も教えてください。

☘️ 相談することでどんな効果があるのでしょうか。
🌱 頭に描いているイメージを言葉に変えることで、見えてくる。
🌱 心のわだかまりを吐き出すことでスッキリする。
☘️ 相談しないとどんなリスクが・・
🌱 我慢すればなんとかなると思っていると、余計なことを考えてしまい悪い方向に・・
🌱 独りよがりになり間違いっていることに気づかなくなることも・・
🌱 話さないでいると誰にも気づいてもらえない、誰も助けてくれいないと思い、孤立してしまうことも・・ ストレスがたまっていく・・

☘️ 話すことへのちょっとした工夫をしてみませんか
相談するのにちょっとした準備をしてみると、話すことが楽になることも・・
メモに短い言葉で書くのもいいし、手書きのイラストでもいいですよ
🌱 今の自分の気持ちを整理してみよう(希望でも価値でも)
🌱「これからどうしたいか」を考えておくと話しやすいよ!
例:『仕事は生きる力』 職場の理解を得るサポートが欲しい。。

☘️ どんな人に相談すればいいのか?
初めて相談する人を判断するのは難しいですが、少し話しただけでも判断できることがあります。
🌱 共感してくれる人かどうか・・
―共感は言葉だけでなく態度で受け入れてくれる。←自己開示してくれる。
―否定せずに聴いてくれる。←自分の言葉に置き換えて、受け入れようとする姿勢
例:痛みの訴えに対して。『そうなんですね』より『それは辛かったね』『私にも同
じ経験があります』とか・・
🌱 信頼できる人を選ぶ(医療者、家族、専門相談者、友達など)
医療者じゃなくてもいいのです。専門知識の教育を受けた人に相談してみてください。直接会うのもいいですし、オンラインでも。
医療者以外にしっかりと教育を受けた相談相手はたくさんいます。
看護師、薬剤師、日本癌治療学会認定がん医療ネットワークナビ、社会福祉士
ピアサポーター 等々

わたしの願いは・・

生き方はひとりひとり違うものです。それを口に出して話してほしいのです。
心の扉を開いて不安、疑問や生き方への考えを話すことで、自分の言いたいことをはっきりできて、それを医療者との対話に活かし、治療選択に参画して、治療に専念できるように患者さんと医療者の架け橋になります。遠慮なく相談してください。

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