一般社団法人がん哲学外来

コラム:Dr.Motooの哲学こらむ“がんと漢方”

文責・元雄良治/監修・宮原富士子

Dr.Motooの哲学こらむ“がんと漢方” vol.05

 夏バテかなと思ったら漢方の助けを借りてみてはいかがでしょうか。最近の夏は猛暑が当たり前になってきましたが、皆様はどのように夏を乗り切っていらっしゃいますか。故渡部昇一上智大学名誉教授は「知的生活の方法」の中で、クーラーの活用法を説いています。適切にクーラー(冷房)を使うことは、猛暑時代にはさらに必要ですが、自分の体質に合わせて冷房と付き合う必要があります。「夏バテ」という言葉がありますが、真夏よりも夏が過ぎる頃に夏バテとなる場合が多いのです。東洋医学では人体に影響する気候的因子として、五邪(風・暑・湿・燥・寒)があり、ちょうど夏は暑と湿が重なる厳しい季節です。しかし、なるべく自然の温度と湿度に体を慣らし、適応できる心身を作ることが健康への道でしょう。
 医療用漢方製剤に金沢の医王山(いおうぜん)を連想させる「医王湯(いおうとう)」という別名を持つ補中益気湯(ほちゅうえっきとう)があります。「中(=おなか)を補い、気を益す」という意味です。これは疲労感・全身倦怠感・食欲不振・夏やせなどに使われますし、感染症への生体防御能の向上なども報告されています。補中益気湯は1年を通して使えますが、夏には名前の似た「清暑益気湯(せいしょえっきとう)」という処方が使えます。清暑とは暑気を消し涼しくするという意味です。補中益気湯は10種類、清暑益気湯は9種類の生薬からなり、6種類が共通しています。水に関しては猛暑による発汗で脱水となり(津[しん]虚)、また疲労・脱力感・意欲の低下は気虚です。清暑益気湯に含まれる麦門冬(ばくもんどう)・五味子(ごみし)・人参(にんじん)の3生薬は「生脈散 (しょうみゃくさん)」と呼ばれ、補気健脾(ほきけんぴ)の意味があり、清暑益気湯は補中益気湯+生脈散と考えられます。生活習慣の工夫で夏を乗り切れない方は、一度漢方について相談されるとよいでしょう。

Dr.Motooの哲学こらむ“がんと漢方” vol.04

「のどがつかえる」という症状は、江戸時代の古典にも「梅干しが引っ掛かったような気がする」、「あぶった肉がへばりついている」などと表現され、かなり一般的な症状です。女性に多く、食道がんが心配な人、感冒後やうつ状態などでも出現します。耳鼻咽喉科的診察、レントゲン検査、上部消化管内視鏡検査、血液検査などで異常がなければ「咽喉頭異常感症」という診断となります。その治療には漢方が有効です。最も有名なのは半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)です。
 のどのつかえに加えて、めまい・ゲップ・胸やけなどの症状があれば、茯苓飲合半夏厚朴湯(ぶくりょういんごうはんげこうぼくとう)という処方があります。
 喘息のような要素があれば、小柴胡湯(しょうさいことう)と半夏厚朴湯の合方(ごうほう)である柴朴湯(さいぼくとう)が適応です。
 一方、うつ状態が強ければ半夏厚朴湯から離れて、香蘇散(こうそさん)がよいでしょう。
 このように喉のつかえといっても決して1つの漢方処方に決まっているわけではなく、また同じ漢方処方が違う症状に使われたりします。これを同病異治・異病同治(どうびょういち・いびょうどうち)と呼びます。

Dr.Motooの哲学こらむ“がんと漢方” vol.03

 漢方は古代中国医学に起源を持ちますが、中世以降、日本の風土や日本人の体質に合うように発達しました。日本に伝来したのは飛鳥時代です(西暦592年 – 西暦710年)。それから日本文化の発達とともに漢方も進歩しました。中国では王侯貴族の診察をするのは脈を診るくらいで、ほとんど問診で治療方針を決めていました。しかし、日本では長屋に住む「赤ひげ先生」のように、庶民の味方のような医師が「どれどれ」と、町民のおなかを診察し、漢方処方を決めていました。こうして「腹診」は日本で開発され、進歩しました。
 現代では血液検査・画像診断などが発達し、その中で漢方製剤が使われています。さらには新しい抗がん剤が次々と承認され、そのような新薬と漢方が併用されます。以前には考えられなかったような時代になっています。
 1967年以来漢方エキス製剤が保険診療に取り入れられ、広く臨床に普及しています。現在148種類の医療用漢方製剤が保険診療で使えます。
 漢方製剤を有効に安全に使うには、学生時代からの教育が重要ですが、西欧化を推進する明治政府によって漢方が公式の医学教育から除外されました。しかし、2001年医学教育モデル・コア・カリキュラムに漢方医学 (和漢薬)が明記され、全医学部で教育されています。最新の2022年度改訂版p58では「和漢薬(漢方薬)の特徴や使用の現状について概説できる」と薬物治療の基本原理の項目で記載されています。

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