Dr.Motooの哲学こらむ“がんと漢方” vol.04
「のどがつかえる」という症状は、江戸時代の古典にも「梅干しが引っ掛かったような気がする」、「あぶった肉がへばりついている」などと表現され、かなり一般的な症状です。女性に多く、食道がんが心配な人、感冒後やうつ状態などでも出現します。耳鼻咽喉科的診察、レントゲン検査、上部消化管内視鏡検査、血液検査などで異常がなければ「咽喉頭異常感症」という診断となります。その治療には漢方が有効です。最も有名なのは半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)です。
のどのつかえに加えて、めまい・ゲップ・胸やけなどの症状があれば、茯苓飲合半夏厚朴湯(ぶくりょういんごうはんげこうぼくとう)という処方があります。
喘息のような要素があれば、小柴胡湯(しょうさいことう)と半夏厚朴湯の合方(ごうほう)である柴朴湯(さいぼくとう)が適応です。
一方、うつ状態が強ければ半夏厚朴湯から離れて、香蘇散(こうそさん)がよいでしょう。
このように喉のつかえといっても決して1つの漢方処方に決まっているわけではなく、また同じ漢方処方が違う症状に使われたりします。これを同病異治・異病同治(どうびょういち・いびょうどうち)と呼びます。
Dr.Motooの哲学こらむ“がんと漢方” vol.03
漢方は古代中国医学に起源を持ちますが、中世以降、日本の風土や日本人の体質に合うように発達しました。日本に伝来したのは飛鳥時代です(西暦592年 – 西暦710年)。それから日本文化の発達とともに漢方も進歩しました。中国では王侯貴族の診察をするのは脈を診るくらいで、ほとんど問診で治療方針を決めていました。しかし、日本では長屋に住む「赤ひげ先生」のように、庶民の味方のような医師が「どれどれ」と、町民のおなかを診察し、漢方処方を決めていました。こうして「腹診」は日本で開発され、進歩しました。
現代では血液検査・画像診断などが発達し、その中で漢方製剤が使われています。さらには新しい抗がん剤が次々と承認され、そのような新薬と漢方が併用されます。以前には考えられなかったような時代になっています。
1967年以来漢方エキス製剤が保険診療に取り入れられ、広く臨床に普及しています。現在148種類の医療用漢方製剤が保険診療で使えます。
漢方製剤を有効に安全に使うには、学生時代からの教育が重要ですが、西欧化を推進する明治政府によって漢方が公式の医学教育から除外されました。しかし、2001年医学教育モデル・コア・カリキュラムに漢方医学 (和漢薬)が明記され、全医学部で教育されています。最新の2022年度改訂版p58では「和漢薬(漢方薬)の特徴や使用の現状について概説できる」と薬物治療の基本原理の項目で記載されています。