vol.11 相談の一歩をもっと身近に
今回は、日本癌治療学会のポスターセッションで発表した内容をもとに、「もっと身近な支援の場」を皆さんと考えたいと思います。
『現状、がんセンター相談支援センターの利用率は1割に満たない』
実際のがん相談支援センターの利用割合を見てみると、2015年では7.7%、2025年の調査結果でも、9%と1割に満たないことが示されています。
相談したい先として挙げた患者さんも14.7%未満。さらに、3割弱の患者さんが「相談した先がない」と回答しており、相談そのものが十分になされていない現状がうかがえます。
一方、がん相談支援センターを訪れた患者さんからは、「医療費の心配が解消し経済面で安心感を得た」、「不安を受け止め、一緒になって考えてくれ、心の支えとなった」といった声が寄せられ、その利用者満足度は81.4%(2015年)と高いことが分かります。
『なぜ、がん相談支援センターに足を運ばないのだろうか?』
そこには「3つの壁」があると考えました。
1. 情報不足:「相談支援センターを知らなかった」人が最も多く、相談窓口の存在や利用法が分かりにくいこと。
2. 相談内容の曖昧さ:診断後の混乱の中で「何を相談すればいいかわからなかった」こと。
3. 心理的な抵抗:「人に頼ってはいけない」という思い込みや「他人に話すことへの抵抗感」。
『これらの課題に対する3つの提案』
1. 心理的ハードルの低減。患者さんには困ったときに助けを求めても良いことを知っていただく必要があります。
2. 多職種連携によるアプローチ。患者さんの不安や分からないことを専門スタッフがチーム全員でサポートし、正しい判断ができるよう支援します。これにより、患者さんの気持ちや生き方を医療チームで共有し、適切な治療選択を支援します。実際に、この体制でセンターへの訪問が6割になった施設もあります。
3. Shared Decision Making(SDM)の推進です。患者さんが「自分の本当の生き方や気持ちに気づく」ことを促し、自ら医療者に生き方を言えるようにサポートします。医師と生き方について対話できた患者さんの、治療選択への関与満足度は高いことが示されています。
〜対話による患者さんの治療選択への満足度に関するアンケート結果から〜
患者さん自らの「声」は、自分らしく生きるための大切な羅針盤とも言えます。それを伝えることは、決してわがままなことではなく、自分自身を大切にするための第一歩であることをぜひ患者さん自身にわかってほしいのです。
『生き方を医療者に伝えることができるようにサポートしてくれる身近な場がほしい』
ある患者さんからは、
「相談って堅苦しい。何を相談していいかわからないのに相談とみると敷居がたかい。何か頼りたい!何か話をしたい!知りたいと思う場が欲しい」
そして、「また来たいなあ」と思ってもらえる場であることが大切だと。

皆さんのカフェでの経験やご意見をどうぞお聞かせください。
vol.10 内科と外科
臨床医学の大きな区分として内科と外科があります。内科系としては、各臓器別内科、総合内科、腫瘍内科、小児科、精神神経科(心療内科、こころの診療科)などが含まれます。外科系は臓器別外科、小児外科、整形外科、形成外科、眼科、耳鼻咽喉科、産婦人科などがあります。外科系は手術というアプローチができることが最大の特徴です。その手術も内視鏡を駆使した低侵襲性手術が発達しています。私が患者さんの腹部を診察すると、以前の手術を受けた患者さんの腹部には大きな手術瘢痕がありますが、最近の内視鏡手術を受けた患者さんの腹部には、ほとんどわからないくらいの小さな手術瘢痕があるのみです。当然侵襲が少ない手術では、術後の回復が早く、日常生活に早く復帰できます。
私は以前の職場で外科医と外来や病棟で一緒に働いていたので、外科医にいろいろなことを教えて頂きました。内科と外科では共通の部分があり、内視鏡なども両者で同様に施行します。外科医は手術中はもちろん、その前後のさまざまな注意が必要で、緊急事態への対応も多いです。内科医から見ていても、本当に大変な業務内容です。しかし、自分の手で病巣を切除して完治に至る過程を達成する喜びは格別でしょう。
内科医は患者さんやご家族との会話を重ねながら診断や治療(主に薬物療法)へと進み、その後の経過観察があります。外科医と比べて地味な診療内容かもしれませんが、医療の基本が内科診療の中にあります。ウイリアム・オスラーはその著書「平静の心」で「外科医が技術的な即断即決を必要とするのに対し、内科医は長期的な観察・思索・患者との関係構築に重きを置く職能である」と位置付けています。内科医には「平静沈着」「広い視野」「思考の柔軟さ」が必要だと述べています。
がん医療では、内科医と外科医が協力して患者さんの治療・ケアに当たっています。江戸時代の医師華岡青洲(1760-1835)は外科医でしたが、「内外合一」を唱え、外科治療を行う際も内科的に患者の全身状態を把握した上で治療すべきであるとしました。
私の場合は、乳腺外科や消化器外科の医師からとくにがんサポーティブケアのために紹介されることが多いです。そのときには、まず立って患者さんやご家族に挨拶します。そして診察時にはできるだけ患者さんの方を向いて同じ目線で話します。多くの患者さんは不安を抱えて診察室に入ってこられますが、それを受け止め、よく説明し、できるだけ患者さんに「手を当てて(てあて)」、丁寧に診察することを心がけています。このような診察は漢方診療にも大切なことで、漢方処方を決めるときには必須です。そして今後も支えていきますよと笑顔で次回の予約をして、患者さんの肩や背中に触れて診察を終わります。患者さんから「今日、この病院に来て良かった」と言ってもらえた時には臨床医として最高の喜びを感じます。
vol.09 人生の北斗七星
私たちは誰でも職場・家庭・社会においてさまざまな役割を持って日々暮らしています。そしてその役割はばらばらのように見えますが、同じ一人の人間のやることはどこかでつながっています。さまざまな経験をした者にしかできないことがあります。私はこれを「人生の北斗七星」と名付けています。それぞれの星は実際にはつながっていませんが、私たちが北斗七星として繋げて見ています。
私の場合は、医師として病院で働いていますので、診療が主になります。以前は大学病院に勤務していましたので、診療が中心ながらも学生や若手医師の教育、研究活動、大学の講座主任としての管理運営などがありました。家庭においても夫・父親・子供としての年代ごとの立場があります。両親はすでに他界しており、子供は独立しておりますが、折に触れてその立場・役割があることを実感します。
社会的には学術団体である各種学会で、若いときには無縁だったいろいろな役職を拝命しています。その際には、嬉しいこともありますが、ときに人間関係に悩んだり、各種の調整が必要なことがあり、悲喜こもごもです。そして、多くの経験を積み、さまざまな人に出会い、自分に与えられた役割があることに気付きます。また、各学会は自分にとってつながっており、若いときに種を蒔いた成果としての現在があることを実感します。「がん」と「漢方」は遠い関係に見えますが、「がんサポーティブケアに漢方を」という立場からは密接な関係と言えます。
いろいろなお役があって大変だなと思うときには、「自分にしかできないマルチタスクで前進!」と感謝して、一歩一歩進んでいきたいものです。「上を向いて歩こう」の歌のように星空を見上げて、「人生の北斗七星」に思いをはせるのは良いものです。
イラスト:徳島大学教授(がん看護学)今井芳枝先生作



