一般社団法人がん哲学外来

コラム:Dr.Motooの哲学こらむ“がんと漢方”

文責・元雄良治/監修・宮原富士子

vol.09 人生の北斗七星

 私たちは誰でも職場・家庭・社会においてさまざまな役割を持って日々暮らしています。そしてその役割はばらばらのように見えますが、同じ一人の人間のやることはどこかでつながっています。さまざまな経験をした者にしかできないことがあります。私はこれを「人生の北斗七星」と名付けています。それぞれの星は実際にはつながっていませんが、私たちが北斗七星として繋げて見ています。
私の場合は、医師として病院で働いていますので、診療が主になります。以前は大学病院に勤務していましたので、診療が中心ながらも学生や若手医師の教育、研究活動、大学の講座主任としての管理運営などがありました。家庭においても夫・父親・子供としての年代ごとの立場があります。両親はすでに他界しており、子供は独立しておりますが、折に触れてその立場・役割があることを実感します。
社会的には学術団体である各種学会で、若いときには無縁だったいろいろな役職を拝命しています。その際には、嬉しいこともありますが、ときに人間関係に悩んだり、各種の調整が必要なことがあり、悲喜こもごもです。そして、多くの経験を積み、さまざまな人に出会い、自分に与えられた役割があることに気付きます。また、各学会は自分にとってつながっており、若いときに種を蒔いた成果としての現在があることを実感します。「がん」と「漢方」は遠い関係に見えますが、「がんサポーティブケアに漢方を」という立場からは密接な関係と言えます。
いろいろなお役があって大変だなと思うときには、「自分にしかできないマルチタスクで前進!」と感謝して、一歩一歩進んでいきたいものです。「上を向いて歩こう」の歌のように星空を見上げて、「人生の北斗七星」に思いをはせるのは良いものです。

イラスト:徳島大学教授(がん看護学)今井芳枝先生作

vol.08 大きなTの字

アルファベットのTの字は横棒と縦棒からなりますが、これを人間の成長・活動にたとえた言葉として私が大学1年のときに教わりました。横棒は人としての品格・教養・社旗人としての素養、縦棒は専門的な知識・経験・技術(技[わざ])です(図参照)。横棒には音楽や文学、コミュニケーション力など、専門にかかわらず誰もが身につけたり、楽しむことが含まれます。まさに豊かな人生のための活動です。横棒が短い人生は何と寂しいことでしょう。医療にあてはめると、医師として患者さんと接する際に、この横棒が長いと、いくらでも話すことができますし、いろいろな人に対応できます。患者さんにとっても「この医師は本当にいろいろなことに造詣が深いなぁ」と、思わず心を開いてくれるでしょう。縦棒は説明するまでもなく、何かの専門家として生きていくためには、「このことについては何でも聞いてくれ」と言えるくらいの勉強が必要です。さまざまな経験を積んでこそ真の専門性が身につきます。こうして、「人生どこまで大きなTの字になれるか」を目標に生きるのは、大きな励みになります。このコラムのテーマである「がんと漢方」においても、Tの字の考え方は重要です。同じ一人の人間が両方のTの字を重ねて大きくしていくイメージでしょうか。広い視野を持ち、深い専門性を持った存在になりたいものです。

vol.07 漢方治療の適応を4つに分ける「安井分類」

安井分類とは、安井廣迪(やすい ひろみち)先生が考案した、漢方治療の適応を4つに分類したものです。タイプ1は漢方単独で有効な場合です。たとえば、こむら返りに芍薬甘草湯です。西洋薬より明らかに優れています。タイプ2は漢方を西洋薬に併用すると西洋薬の効果が高まる場合です。たとえば、膠原病の西洋薬治療に漢方薬を併用する場合などです。タイプ3は漢方が西洋薬の副作用を軽減させる場合です。たとえば、がん薬物療法の副作用対策に漢方薬を用いる場合です。このタイプ3は私がとくに専門にしている分野です。食欲不振に六君子湯(りっくんしとう)、全身倦怠感に補中益気湯(ほちゅうえっきとう)、手足のしびれに牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)、口内炎に半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)などです。タイプ4は何らかの理由で西洋薬が使えない場合に漢方を使う場合です。たとえば、妊婦・授乳婦あるいは副作用やアレルギーのため西洋薬が使えない場合などです。
以上のことを図示すると次のようになります。


Motoo Y, Yasui H. Analysis on Kampo case reports from the viewpoint of “Yasui Classification”.
Traditional & Kampo Medicine 11(1): 60-64, 2024.

漢方薬の有効性と安全性の観点からも優れた分類と考えられます。皆さんも漢方を処方してもらうときには、これは安井分類のどのタイプに該当するのかを考えてみるのは意義深いことと思います。

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