一般社団法人がん哲学外来

コラム:Dr.Motooの哲学こらむ“がんと漢方”

文責・元雄良治/監修・宮原富士子

vol.08 大きなTの字

アルファベットのTの字は横棒と縦棒からなりますが、これを人間の成長・活動にたとえた言葉として私が大学1年のときに教わりました。横棒は人としての品格・教養・社旗人としての素養、縦棒は専門的な知識・経験・技術(技[わざ])です(図参照)。横棒には音楽や文学、コミュニケーション力など、専門にかかわらず誰もが身につけたり、楽しむことが含まれます。まさに豊かな人生のための活動です。横棒が短い人生は何と寂しいことでしょう。医療にあてはめると、医師として患者さんと接する際に、この横棒が長いと、いくらでも話すことができますし、いろいろな人に対応できます。患者さんにとっても「この医師は本当にいろいろなことに造詣が深いなぁ」と、思わず心を開いてくれるでしょう。縦棒は説明するまでもなく、何かの専門家として生きていくためには、「このことについては何でも聞いてくれ」と言えるくらいの勉強が必要です。さまざまな経験を積んでこそ真の専門性が身につきます。こうして、「人生どこまで大きなTの字になれるか」を目標に生きるのは、大きな励みになります。このコラムのテーマである「がんと漢方」においても、Tの字の考え方は重要です。同じ一人の人間が両方のTの字を重ねて大きくしていくイメージでしょうか。広い視野を持ち、深い専門性を持った存在になりたいものです。

vol.07 漢方治療の適応を4つに分ける「安井分類」

安井分類とは、安井廣迪(やすい ひろみち)先生が考案した、漢方治療の適応を4つに分類したものです。タイプ1は漢方単独で有効な場合です。たとえば、こむら返りに芍薬甘草湯です。西洋薬より明らかに優れています。タイプ2は漢方を西洋薬に併用すると西洋薬の効果が高まる場合です。たとえば、膠原病の西洋薬治療に漢方薬を併用する場合などです。タイプ3は漢方が西洋薬の副作用を軽減させる場合です。たとえば、がん薬物療法の副作用対策に漢方薬を用いる場合です。このタイプ3は私がとくに専門にしている分野です。食欲不振に六君子湯(りっくんしとう)、全身倦怠感に補中益気湯(ほちゅうえっきとう)、手足のしびれに牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)、口内炎に半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)などです。タイプ4は何らかの理由で西洋薬が使えない場合に漢方を使う場合です。たとえば、妊婦・授乳婦あるいは副作用やアレルギーのため西洋薬が使えない場合などです。
以上のことを図示すると次のようになります。


Motoo Y, Yasui H. Analysis on Kampo case reports from the viewpoint of “Yasui Classification”.
Traditional & Kampo Medicine 11(1): 60-64, 2024.

漢方薬の有効性と安全性の観点からも優れた分類と考えられます。皆さんも漢方を処方してもらうときには、これは安井分類のどのタイプに該当するのかを考えてみるのは意義深いことと思います。

vol.06 服薬方法の工夫

「漢方薬は味や匂いが気になって飲みにくい」と最初から漢方薬を敬遠する患者さんが一定の割合でいます。そのようなときは、あまり無理押しはしませんが、せっかく漢方が有効な可能性がある場合は、「水オブラート法」を試してみてはいかがでしょうか。市販のオブラートで漢方エキス剤を包み、少量の水に漬けて、数秒なじませ、ひとくち水と一緒に服用する方法です。無味無臭で、飲む量も少なく、服薬のストレスが激減します。オブラートは袋状のものが便利です(折りたたむ必要がありません)。この方法で漢方薬を自由に飲めるようになり、さまざまな症状に対応できるようになった、家族や友人・知人にも同じ方法を勧めて漢方を飲める人が増えてきたという声を聞きます。
 漢方薬の名前には「○○湯」というものが多いですが、これは生薬を煎じた湯液(とうえき)に由来します。漢方エキス製剤は煎じ薬から工業的に生産される製品ですが、まさに「インスタント煎じ薬」です。漢方エキス製剤が使えるようになってから、漢方薬が身近になり、携帯もできて便利になりました。一方で、煎じ薬はドリップコーヒーのような味と香りがして、本格的な漢方治療を受けていると実感する患者さんもいます。そのことを念頭に、エキス製剤でも、顆粒のまま内服するよりもお湯に溶いて服用した方が効果的と言われ,香りとともに味や熱も薬効として取り込めるメリットがあります。特に真武湯(しんぶとう)や大建中湯(だいけんちゅうとう)のような体を温める処方では、このような温服(おんぷく)はお薦めです。逆にホットフラッシュにも使われる黄連解毒湯などの, 冷やす処方では冷水で服用する(冷服)ほうが効果的です。また黄蓮(オウレン)・黄芩(オウゴン),呉茱萸(ゴシュユ)などはかなり苦い生薬のため,これらを含む処方をお湯に溶かして服用するときには、苦味消しとしてココア粉末を混ぜると飲みやすくなります。

〈トップページに戻る〉